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競走馬の一生を左右する
重要な場面を知る人々の声を集めました。

2022年7月1日をもちまして、
当ページにて掲載していた全ての記事は、
誠に勝手ながら、株式会社Creem Panが運営する、
引退馬問題を考えるサイト「Loveuma.(ラヴーマ)」に
移動させていただきました。
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人と馬の“今”を伝え、
引退馬問題を考える。

Loveuma.

第7回「責任と義務」

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競走馬の一生を左右する重要な場面を知る人々の  
声を届けるWEB連載企画

 競走馬は現役時に限らず、生まれてから死ぬまで常に競争の中で生きているー。

 引退後に余生を満足に送ることができない馬がいる一方で、引退すら迎える事ができない馬、つまり競走馬になれなかった馬や、競走生活を全うできなかった馬も多く存在します。この事実にも目を向け、その上で「競走引退後」を捉えると、また違った視点から引退馬支援を見つめ直すことができるのではないか…。

最終回はJRA調教師で引退競走馬に関する検討委員会の鈴木伸尋さん

 JRAが「引退競走馬に関する検討委員会」を発足させて引退馬支援に乗り出したのが平成29年12月。その前身組織である準備委員会が平成29年2月に始動している。準備委員会発足当初から委員として加わっていたのが、当時日本調教師会関東本部・本部長だった鈴木伸尋調教師だ。委員として活動を始めたのを機に、本業の調教師の仕事をこなしながら、精力的に日本各地の引退競走馬のいる施設を視察し、現状把握につとめてきた。引退競走馬支援の活動は、今やライフワークともなっているという師に、JRAの取り組みや今後の課題など、じっくりと話を聞いた。 

 写真:JRA調教師 鈴木伸尋さん(撮影:Creem Pan)

 

 鈴木さんは静岡県田方郡の農家に生まれ育った。祖父が牛や豚も飼養していてその記憶もあるという。やがて家畜はいなくなり、稲作やいちご栽培がメインになったが、家には犬や猫もいて、幼い頃から動物と触れ合う生活をしてきた。そんな中、ムツゴロウこと畑正憲さんの著書を読んだのをきっかけに、野生動物や絶滅危惧種の保護を動物園でやりたくなり獣医を志すようになった。 

 進学した日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)で馬術部の勧誘を受け、馬に乗ることにも興味を抱き、入部を決めた。これが馬と関わった最初だった。

 「馬の世話をしたり、試合に出たり、馬と触れ合っているうちに、馬の魅力に取り憑かれてしまいました」 

 野生動物や絶滅危惧種の保護は大学入学後もずっとやりたいことではあった。だが馬との出会いが方向を変えた。馬の獣医を目指す。そう決意した鈴木さんが研修に行った先が千葉県にあるシンボリ牧場だった。当時、5冠馬のシンボリルドルフやダービー馬のシリウスシンボリが現役で、シンボリ牧場で公開調教を行うなど、華やかな時代でもあった。その時の場長が獣医師でもある桐沢正好さんで、約2年間、鈴木さんは桐沢さんから学んだ。だが桐沢は病に倒れ、この世を去る。師匠を失った鈴木さんは、この先どうしようかと考えた。生前、桐沢さんに「調教師という道もある」とアドバイスを受けていた。師匠のその言葉が背中を押した。

 調教助手を経て、1997年に調教師試験に合格し、翌1998年に厩舎を開業した、これまでに2003年のクイーンCを制し、オークスで2着となったチューニー、2008年のユニコーンステークスの覇者ユビキタス、2010年の中山牝馬S優勝のニシノブルームーンなどの活躍馬を送り出している。

  


写真:クイーンCを制したチューニー号と鈴木さんと関係者の方々(提供:鈴木伸尋さん)


 調教師会の役員に選出されたのは、開業して
2年目。そこから現在まで長年役員を務めてきた。ところで調教師会とは、どのような仕事をしているのだろうか。鈴木さんに説明してもらった。 

 「競馬をどのように施行して運用していくかという細かい競馬のルールを競馬会と調教師会との間で決める
、馬主会と調教師会の間の様々な取り決めをする、労働組合との間での取り決めやルール作りをしたり賃金等の団体交渉をする。この
3つが調教師会の3つの大きな仕事です」

 

 調教師と調教師会役員。それだけでも多忙なはずだが、JRA内に設置された「引退競走馬に関する検討委員会」の委員としての仕事がさらに加わった。 

検討委員会への参画

 「それまでも調教師は引退した馬を乗馬クラブや大学の馬術部に譲渡したりしていましたけど、あくまで個人レベルですからね」 

 競走馬登録抹消からトレセンを出ていくまで、時間の猶予がない。引き取ってくれる乗馬クラブや馬術部を探すのも困難なケースも多い。例え引き取られても、第4回の増山大治郎さんの回でも話題になったように、すべての馬が乗馬になれるわけではない。だが引き取ってもらえただけでよしとし、その先までは追わない。それが業界の暗黙のルールにもなっていた。だから引退した馬のセカンドキャリア以降をどうするかという課題は、表面化することなく解決されないままになっていた。 

 それが5年ほど前から馬の福祉にしっかり取り組んだ上で、競馬を行っていく。これが世界的な流れになってきた。
 

 「アジアの中で日本は競馬先進国ですし、パートI国(※)にもなったので、日本の競馬界、競馬関係者はしっかりと馬の福祉に取り組んでくださいと、国際会議の中で話し合いがなされました」 

 
 そこから
JRAを中心とした日本の競馬界も馬の福祉への取り組みを本格化させる流れとなり、JRA内に「引退競走馬に関する検討委員会」が設置されることとなった。 

その当時、日本調教師会の副会長で、関東支部長の要職であった鈴木さんは、委員会への参加を打診され、快諾している。これが引退馬支援に大きく関わる転機だった。 

※パートI国とは 

「国際セリ名簿基準委員会」(ICSC)は、世界の競馬開催国のレベルによってパートIからパートIII(障害競走はパートIV)にグループ分けをしている。2007年(平成19)年、パートI国として認められる要件を満たした日本は、パートII国からパートI国に昇格した。 

北海道から鹿児島まで、現場を見る

 引退馬支援活動を始める以前の鈴木さんは、競馬から引退した馬のその後は気にはなっていたものの、調教師の立場自分馬を引き取るのは難しいと考えていた。たくさんいる預託馬たちの中からある特定の馬を自分で面倒をみた場合、他の馬はどうでもいいのかという不公平が生じる可能性があるからだ。それで引退競走馬問題には一線を引いたスタンスだったようだ。 

 それが「引退競走馬に関する検討委員会」のメンバーになってからは、休日を返上して引退馬を繫養している施設調査のため全国を精力的に回り始め、後述するが馬を引き取るまでになった。 

 「まず現場は今どういう状況になっているのか、特に養老余生の牧場が日本にどのくらいあって、どのような運営状況なのか。知っているつもりが、実は全く知らないというのを感じていたので、何を求めているのか、どうしたいのか、馬たちはちゃんと余生を送れているのかを確かめたかったですし、まずは現場の生の声をきかなきゃいけないと思いました」
 

 鈴木さんは個人的にホーストラスト北海道、ジオファーム八幡平(岩手県)、ブレーブステーブル(栃木県)、八ヶ岳ホースケア牧場(山梨県)、あしずりダディー牧場(高知県)、土佐黒潮牧場(高知県)、ホーストラスト鹿児島…など、北海道から鹿児島まで30~40カ所の養老余生の牧場に足を運び、それぞれの牧場から実情を聞いた。
 

 「皆、苦労をされていると感じました。SNSをうまく利用いている牧場などは表に出ていて情報がある程度わかりますけど、SNSをしていないと牧場の存在もわかりませんし、どこにその牧場があるのか、何頭飼養しているのか、どんな風に飼養管理をしているのかなど、内情も全くわからないですからね」 

  

 まずはSNSなどに情報が上がっている牧場を調べ、そこから11訪ね歩いた。訪問先で情報から漏れていた他の養老牧場の情報を得るケースも多々あり、さらに新たな牧場を訪ねる。それが繰り返された。 

 「東京で会議をして何をしていこうと話し合っても、実際現場の人が何を求めているのかは想像でしかないですよね。机上の論理取り決めをしても、馬のためにも牧場の人のためにもならないというのが1番大きかったですね」 

 鈴木さんが集めてきた現場の生の声は、会議の中でかなり反映されているという。

数千万から数十万まで。JRAの奨励金給付

 検討委員会には、日本中央競馬会、農林水産省競馬監督課、日本調教師会、日本騎手クラブ、日本馬主協会連合会、日本軽種馬協会、地方競馬全国協会、特別区競馬組合の各団体、組織が参加し、会議が重ねられている。発足して約4年になるが、実績のある養老余生の牧場及び、団体に奨励金を交付するというのが、現在のメインの活動となっている。
 

 「奨励金の金額を決めるのはなかなか難しくて、一応繫養頭数を1つの目安としています。1番高いところで数千万、安いところで数十万と、幅広いです。頭数でいうと1番多い施設が136頭、少ないところで23頭ですね」 

 お金を出すということになれば、適当は許されない。内部では何段階かの基準を設けて審査し、交付が決定されている。奨励金が交付されていることは、JRAのホームページでも公表されるようになったが、交付を受けた団体や金額については未公開だ。奨励金目当てで開業したり、虚偽の報告があったりすることを懸念してというのが、詳細を公開しない理由の1つのようだ。 

 奨励金の使途については、厳密なルールはない。 

 「牧場を回ってみて、各々で必要なものが違うですよ。牧柵を修理したいという人もいれば、トラックが必要だという人もいる。人を雇いたいとか、従業員にボーナスを出してあげたいとか。ですから、使途を限定すると、お金が活きないので、とりあえずは大枠で馬のために使ってくださいということで交付しています。そのかわり、こちらも調査には出向いて何に使ったかを調べて、委員会の中で公表しています」 

 奨励金については、段階を踏んで徐々に公開していくことになりそうだ。 

 「JRAのお金を使っているので、しっかりした制度ができるまでは委員会の中で行っているという感じですね。でもいずれは(勝ち馬投票券購入で)自分が出したお金が馬のために使われるように、また馬のために使われていることがわかるように、誰もが見られるような形にしていく予定です」 

検討委員会が目指すこと

 検討委員会では、奨励金以外にも流鏑馬(やぶさめ)をはじめとする日本古来からある馬文化を絶やさないよう、経済的援助や講習会を開いて技術面の向上など、継承と発展にも取り組んでいる。

 「あとはホースセラピーですね。馬を使って障がいのある人たちに楽しんでもらって元気になってもらうような活動をされているところが、日本にはたくさんある
です。個人レベルでやっているところがほとんどですけど、そこに支援をしたり、海外から講師を招いてセラピーをしている指導者向けの講演会を開催したりと、様々な取り組みをしています」

 

 だが大きな課題もまだ残っている。引退競走馬たちの受け皿をどう増やしていくかということだ。養老牧場は基本的に収入が預託料のみで、手間がかかるわりには預託料が安い傾向にある。馬を飼うだけではなく、厩舎、放牧地の維持管理だけでもかなりの費用がかかる。敷地が広いと重機が必要不可欠だが、その重機も高額でなかなか入手できない場合もある。人を雇うのも難しく、結果として休みが全くないという状況になりがちだ。このような状況を改善する1つが前述した奨励金なのだろうが、根本的解決のための施策も期待したいところだ。
 

 「現在私たちが把握している養老余生の馬たちの頭数はおそらく2,000頭弱くらいなんですよ。それでも全然足りません。全頭救うのは現段階では無理なのですけど、まあ全頭ならばこの10倍は必要です。セカンドキャリアをいくら増やしたとしても、そこから流れてくる馬たちの受け皿、最終ステージでもある養老余生の施設が増えない限り前に進まないですよね」

 

(資料:日本馬事協会「馬関係資料」より、Creem Pan調べ)

 では受け皿を増やすためにはどうすればいいのだろうか。
 
 

 「例えばこれまで10頭だったのが12預かれるようにするなど、既存の養老牧場に繫養できる馬の数を増やすことが1つ。それから新たに養老余生の牧場を始めたいという若い人たちを支援したり、牧場で生計がたてられるという要はモデル事業を行うことですよね 

 
 JRAからの支援があったとしてもそれだけに頼るのではなく、引退余生の牧場を事業として成立させ、人々がその仕事によってしっかりと生活していける。それが可能になれば、引退競走馬の未来はかなり明るいものになるだろう。

 「知恵とお金ですよね。馬1頭を飼養管理する、馬を預かって牧場を経営するというのはものすごく知識とお金を必要とします。設備投資も必要ですし、厩舎にも放牧地維持にも経費がかかります。きれいごとでは済まないですよね。なので行政、民間、JRAの三つ巴で、バックアップしていく。そういうことも既にやっているです」
 

 その1つが、北海道の釧路市に近い標茶町で展開する道東ホースタウンプロジェクト。ここはふるさと納税を活用して、乗馬クラブの練習馬として貢献してきた馬たちが乗馬引退後に暮らす施設だ。
 

 「場所的に何百頭の馬を繫養できるのですが、マンパワーの問題があるのでバックアップしています」
 

 その他にも岡山の蒜山ホースパーク(オールドフレンズジャパン)と高知県のあしずりダディー牧場がその対象となっている。 

 今後、どのくらいの馬が生きていけるようにするのか、検討委員会には数値的な目標は設定しているのだろうか。
  

 「実は12頭を個人飼っている人もいるですよ。そういう方々まで含むと、日本にどれだ引退した競走馬がいるのか全く把握できていないです。なので数値的な目標というのはまだ立てられません。今は引退した馬たちが生きていける場所を作ってあげるということを、コツコツとやっているという段階です」 

“元”猛獣・トモジャポルックス

写真:トモジャポルックスと鈴木伸尋さん(撮影:Creem Pan)

 以前は調教師の立場として馬を引き取るのは難しいと感じていた鈴木さんだが、今はトモジャポルックスという芦毛の元競走馬のオーナーでもある。ではなぜトモジャポルックスを引き取ろうと思ったのだろうか。

 「自分の厩舎の管理馬だったのですけど、人に対して攻撃的であったり、闘争心がある時もあればない時もあるといった難しい気性の馬でした
 

 本来であれば、そのような気性の馬は乗馬としては敬遠されがちだ。だが鈴木さんはあえて気性難のある馬を、リトレーニングやグランドワークを駆使して乗馬用に調教したいと考えた。


 「このような気性の馬を乗馬にできれば、どんな馬でも乗馬にできる可能性があるでしょうし、自らの知識や技術を高めるためにもあえて引き取ったということですね」
 

 競走馬時代のポルックスのオーナーも鈴木さんの考えを聞いて、とても喜んで譲ってくれた。だが競走から引退したトモジャポルックスは、鈴木さんの想像とは違っていた。
 

 「現役時は猛獣みたいな馬でしたけど、トレセンというストレスのかかる場所から環境が変わってストレスフリーの場所に来ることによって、すごくリラックスして大人しくなったです」 

 レースに向けてきついトレーニングを積んでいき、体も極限まで研ぎ澄まされる。そのようなトレセンでの状況とは正反対の、のんびりした空気感が、トモジャポルックスに与えた影響は大きかった。
 

 「本来は穏やかで大人しい性質を持っていたのに、気性が難しくて猛獣のような馬という色眼鏡で見てしまっていたのかもしれません。1か月もしたら本当に大人しくなって、これがポルックス?というくらい、ちょっと拍子抜けでしたね 


 さらにグランドワークという方法を取り入れ、人と馬との信頼関係を構築していく中で、短期間のうちに成長も見せた。
 


写真:グランドワークを行うトモジャポルックスと鈴木伸尋さん(提供:鈴木伸尋さん)

 「グランドワークでは、例えば鈍化といって、いろいろなことに対して鈍くしていくということをします。競走馬は競走に勝つ、速く走るというのが目的なので、テンションを上げてピリピリする精神状況に持って行ってレースに臨むような面もありますが、乗馬では全く逆でどんなことにも驚いてはいけないですからね」 


 物音や人の動き、他の馬や鳥など動物の動きにも動じない、鞭にも過敏に反応しない、静かに平常心を保っていられる。そのような馬になるよう、グランドワークを行っていく。 

 

 「元競走馬の場合は鞭にものすごく敏感になっているので、少し触れただけでもビクッとしたり、ワッと走り抱いたりするのですけど、鞭や棒で馬体に触れても動じないようにしていきます」 

 鞭や棒以外には、ブルーシートやはためく旗、自動で開く傘の動きを見せたり、カンカン鳴る缶の音を聞かせてみたり、近くを通る車のそばに連れていって、いろいろなものに慣らす。このようにグランドワークを繰り返すことで、やがて初心者や子供が乗っても動じず安全な馬になっていくというわけだ。 

 「ただポルックスに関しては、最近難しい歩きや扶助を教え始めたので、ストレスがかかってきたのでしょうね。昔の気性の難しいところが少し出てきたかなという感じはしています」 


 このあたりにどう対処していくか。トモジャポルックスとの今後に、新たな課題が出てきたようだ。 

子供たちに馬の素晴らしさを


写真:子供たちと馬のふれあいイベント(提供:佐々木祥惠さん)


 コロナ禍前の2019年、つくば市の廃校になった小学校の校庭を利用して、地域の子供たちに触れ合ってもらうイベントがJRA美浦トレーニングセンターと日本調教師会関東支部が協力して開催された。馬に乗ったり、触れ合ったり、子供たちの笑顔がはじけたイベントで、もちろん鈴木さんも参加していた。 

 「1頭でも多くの馬に居場所を探してあげたいというのが目標ではありますが、それと同時に子供達に馬のすばらしさ、乗馬の面白さを伝えていかなければならないと感じています」 

 引退馬を乗馬にリトレーニングしても、その馬に乗る人や世話をする人がいないと、裾野は広がらない。競馬の世界でも人手不足が深刻で、育成牧場や生産牧場では外国人労働者に頼っているという現実がある。馬を次々と保護して支援をしても、馬に関わる人がいなければうまく回っていかないのだ。 

 「馬と人とは共存していかなければなりませんし、それが最終的には馬を救うことにもなり、日本において競馬や乗馬など馬業界が発展していくことに繋がると思うんですよね」 




(資料:スポーツ庁「スポーツの実施状況等に関する世論調査(全文)」より、Creem Pan作成)

 これは令和元年11〜12月にスポーツ庁が、スポーツの実施状況等に関する国民の意識を把握し、今後の施策の参考とすることを目的に行われた調査資料の中で、「あなたがこの1年間に行った運動やスポーツがあれば全部あげてください。」という質問に対しての10代男女の回答をもとに、独自に制作した表だ。

 回答数が多かった4種目と乗馬を抜粋しているが、表からも分かる通り、若い世代にとって乗馬は他のスポーツと比べて人気が高いとは言えない。例えば、ひと学年200人の生徒がいたとすると、テニスを体験した生徒が20人いることに対して、乗馬は1人ということになる。


 「幼い時に馬に触れる機会が日本ではほとんどないですよね。私たち競馬の世界の人間も、そこに力を入れてきませんでしたし。ですから子供たちに馬に触れてもらうことによって、乗馬人口が増えたり、馬業界に就職する人が増える可能性があります。乗馬人口が増えれば、自分の馬がほしいという人たちも出てきます。そうすればまた引退競走馬の居場所を増やすこともできると思います」 


 そしてコロナ禍が終了したら、2019年に開催したような子供たちが馬と触れ合うイベントを、個人的にもやっていきたいと語った。

責任と義務

 「馬に食べさせてもらっている」。馬業界で働く方々から、よく発せられる言葉だ。そこには馬への感謝の気持ちが込められている。だが経済的負担の大きい馬の一生に責任を持つというのは容易ではない。馬によって糧を得てる人々は葛藤を抱えつつ、目の前の馬と向き合い続けているはずだ。 

 「自分の生活もそうですし、いろいろなところで馬たちに救われている人がいます。だから恩返しと言っては大袈裟かもしれないですけど、馬たちと人が共存できる世の中にしたい、いやしなければならない。やはり競馬や乗馬の世界の人たちは、そうする責任と義務があるのではないかと思っています」 

 もし乗馬になれなかったら、乗馬や繁殖で必要がなくなったら、その時は屠畜されても仕方ない。これまでは馬業界全体がそのような傾向にあった。だが馬の養老余生について責任と義務があると鈴木さんは明言した。 

 全ての馬をすぐに救うことは難しくても、その理想に向かって進んでいく。それが鈴木さんのモチベーションになっているようだ。
 

 「僕も、もう年齢も重ねていますので、いつどうなるかわからないというのもあります。だからやりたいことがあったら、すぐに行動に移したいですよね。だからコロナでなかなか進まないのが少し歯がゆいです。それでも子供たちに馬と触れ合ってもらうことと、馬の居場所を見つけてあげること、この両方をやっていかなければならないと思っています」 

取材を終えて

 鈴木さんは現役の調教師でありながら、国内でも有数の引退馬支援の活動家である。本業は馬を鍛えて競馬で勝つことなのは間違いないが、時として引退馬支援がそれ以上に熱心に映ることもある。そんな姿を見て「そこまでする、原動力ってなんですか?」と尋ねたとき、鈴木さんが口にしたのが「責任と義務」という言葉だった。 

 日本のホースマンたちの誇りと情熱によって、我が国は世界でも有数のトップクラスの競馬大国となった。そして次は、ホースマンたちの「責任と義務」が試される時代が来ているのかもしれない。

 

協力:鈴木 伸尋さん
   阿見乗馬クラブ

制作:片川 晴喜  
写真:平本 淳也

文:佐々木 祥恵  

取材・構成・監修:平林 健一  

著作:Creem Pan 

連載完結の御礼とお願い

 今回の記事をもちまして、6回+番外編1回の全7回の記事公開が終了し、2021年6月より毎月1回ずつ更新してきた連載を完結とさせていただきます。皆様には半年にわたりご愛顧いただきましたこと、深く御礼申し上げます。

 突然ですが、「Creem Pan」という名前は「丁寧に思いを込めて作りたい」という気持ちから、手作りを意味する「Creem」と、広い視野で物事を捉えたいという気持ちから、映像用語のパンフォーカス(遠近全てのものにピントが合う方法)の「Pan」を組み合わせて出来ています。

 そんな私たちは、スピード勝負でライトなコンテンツを量産するよりも、1つ1つを丁寧に強い力を込めてコンテンツを作り上げる気質です。手前味噌ですが、この連載コラムにおいても、自主制作の無料コンテンツでありながら、信念を曲げず、情報の中立性と具体性にこだわり丁寧に強い記事を作ってきたつもりです。

 もうご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、先日12月22日をもちまして、Creem Pan は任意団体から株式会社となりました。これからは、収益と品質のバランスを今まで以上に考えならなくなるかと思いますが、「人と馬の未来をより豊かにする」ことを心から本気で目指し、人と馬の“今”を伝える活動に精進して参ります。

 つきましては大変不躾ながら、皆様にお願いしたい事がございます。全7回の連載を振り返り、もしも「人と馬の未来のためになる記事だった」と感じていただけたならば、この記事を周りの「馬が好きな人」に、ご紹介いただけませんでしょうか?

▽ WEB連載企画「引退馬支援情報」全7話一覧
https://creempan.jp/uma-umareru/support-info/index.html

 そして、もう一つ。 次回作として、より「人と馬の未来のためになるコンテンツ」を作るためのアンケー トにご協力いただけないでしょうか?

▽ Creem Pan 新連載に関するアンケート
https://docs.google.com/forms/d/1QdqOp4CgZuZ5JUHUipDUewN82Ue4XHSqLVEUVGZUTpo/edit

 皆様からいただいた“種”をCreem Panが責任を持って育て上げて花を咲かせ、皆様にお見せしたいと考えております。

 ご愛顧いただいた御礼と共に、図々しいお願いを申して大変恐縮ではございますが、 どうかご容赦ください。
 何卒よろしくお願い申し上げます。

連載監修:平林 健一(株式会社 Creem Pan 代表取締役)