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競走馬の一生を左右する
重要な場面を知る人々の声を集めました。

第4回「サラブレッドは乗馬に不向き?」

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競走馬の一生を左右する重要な場面を知る人々の  
声を届けるWEB連載企画

 競走馬は現役時に限らず、生まれてから死ぬまで常に競争の中で生きているー。

 引退後に余生を満足に送ることができない馬がいる一方で、引退すら迎える事ができない馬、つまり競走馬になれなかった馬や、競走生活を全うできなかった馬も多く存在します。この事実にも目を向け、その上で「競走引退後」を捉えると、また違った視点から引退馬支援を見つめ直すことができるのではないか…。

 この企画では、競走馬の一生を左右する重要な場面を知る様々な人に話を伺い、前述したように広い定義での「引退馬支援」についての情報を、毎月1話ずつ6回に分けて連載していきます。

【過去記事】第1回「デビューを迎えられなかった馬たち
【過去記事】第2回「なぜ馬は走り続けることができないのか」
【過去記事】第3回「生かすことが幸せなのか」

第4回は馬術競技選手の増山大治郎さん

 今回は競走馬としてのステージを終えた馬のセカンドキャリアとして、繁殖用(種牡馬、繁殖牝馬)以外に最もポピュラーとも言える「乗馬」について考えてみる。乗馬用に生産された中間種に比べて、サラブレッドは乗馬に向かないとよく言われているが、実際はどうなのか。ジュニア時代から多くのサラブレッドに跨り、現在も競馬を引退したサラブレッドのリトレーニングを手掛けて競技会にも出場している増山大治郎さんに話を聞いた。 

 増山さんは昭和58(1983)年生まれの現在37歳。茨城県にある乗馬クラブ、筑波スカイラインスティーブルの代表を務めている。 

 
 写真:筑波スカイラインスティーブル・増山大治郎さん(写真:本人提供)

 

 生まれも育ちも栃木県小山市で、父は元々寿司屋を営んでいた。気が付けば父は兄と共に乗馬にのめり込んでおり、増山さんが小学校低学年時にいきなり乗馬クラブを立ち上げていた

 「学校ではサッカーをやっていましたが、せっかく馬に乗る施設があるのだから、お前も乗れと父に言われて乗馬を始めました」 

 兄の増山誠倫さんは、当時既に障害馬術でジュニアの日本一に輝いていて、憧れの存在でもあった。 

 「サッカーもさほどうまくはなかったですし、それなら日本一になって世間から注目を浴びるような競技をしてみたいと思って、小学校5年生から本格的に乗馬に取り組み始めました」 

 自分の家が乗馬クラブという環境や父のサポートもあったが、乗馬センスも持ち合わせていたのだろう。中学、高校時代には、ジュニアの大会で好成績を収めるようになっていた。2009年には、日本で行われるワールドカップの予選である日本リーグで優勝。アメリカ・ラスベガスで開催されたファイナル大会に出場を果たした。 

 「前年には兄が出場していたので、2年連続で兄弟で出場することができました」 

 ちなみに兄が騎乗したトップギアⅠ(ファースト)(競走馬名:ターボギア 父:ビゼンニシキ 母父:タカウォーク)は元競走馬で、日本からワールドカップに出場した馬としては唯一の引退競走馬でもあるその後、増山さんは独立して、茨城県土浦市を経てかすみがうら市に筑波スカイラインスティーブルを設立。一経営者、競技者、指導者として活動をしながら、茨城県の県強化委員として後身の育成にも携わっている。 

 また増山さんは近年、元競走馬のスタークソックス号(父:メジロマックイーン 母父:Danzig)とコンビを組み、第12回JRAジャパンブリーディングホースショーという大会で優勝を果たしている。ちなみに同馬は一昨年もこの大会に優勝し、2連覇を達成した昨年は21歳。競技馬としては高齢ながら活躍をしている。 

 

写真:スタークソックス号と増山大治郎さん(写真:©信田 尚吾)

乗馬クラブ・筑波スカイラインスティーブル

 筑波スカイラインスティーブルの会員は6割が技術を向上させて馬術選手として成果を挙げたい人残り4割が健康維持を兼ねた趣味の人、という割合になっている馬の種類に関して尋ねると、
 

 「お客様からの預託馬もあわせて、僕は普段10頭ほど運動をさせているのですが、そのうち半分はサラブレッドで、あとの半分は中間種やヨーロッパから輸入した馬です」

 乗馬クラブによっては、1頭の練習馬が1日に数回レッスンに出る場合もある。大人しく乗りやすい馬は人気が高いので、出番が多くなるケースもあるようだ。筑波スカイラインスティーブルでは、会員が乗る練習馬たちには負担をかけないというのが方針の1つにもなっている。
 

 「1頭の馬がレッスンに出るのは、1鞍か多くて2鞍です。1鞍の中で、お客様のニーズにこたえられるようなレッスンをするという形で行っています」
 

 レッスンも部班(複数の人馬が一緒にレッスンを受けること)ではなくマンツーマンを基本とし、細部まで目が届くよう心がけている。
 

 また競技会の出場を目指している会員は障害飛越の練習を常に行うわけではない。
 

 「毎日障害を飛んでも上手にはならないですし、やはり基礎が大事なので、大人しく安全な練習馬で基礎練習をしっかり乗ってもらうようにしています」
 

 また、JRA美浦トレーニングセンターから割と近いという立地条件もあり、障害の初期調教の依頼もある 

 「ただ競馬の障害に関してはプロではないので、調教師さんとも相談しながら、障害を怖がらないようにすることと、飛び方や踏み切り方だけを教えるようにして、馬術の障害飛越寄りにならないようにしています」 

馬の仕入れ方

 増山さんのクラブに来る馬は、主に競馬を引退したサラブレッドと海外からの輸入馬だ。前述した通り、父の経営する乗馬クラブ時代に乗っていたのは引退競走馬が主だったことからも、以前は乗馬としてのサラブレッドの需要がかなりあったことがうかがえる。だが最近では、競技会でも外国からの輸入馬の姿が目につくようになってきた
 

 「兄がトップギアでワールドカップに出場したように、僕がまだ小中学校の時は、サラブレッドでも150cmぐらいの高さの障害飛越競技に出ている馬は結構いました。当時と今では、コースの難易度などいろいろと変わってきているので、一概には比較はできないですけど、それでも多かったと思います。でも最近は、140㎝や150㎝と高いクラスに出場するサラブレッドは少なくなりました」

増山さんはその要因を次のように分析する。 

 「20数年前以前は、海外から馬を輸入するのはかなり大変だったんです。今ならインターネットが普及しているので、すぐに映像を見ることができますけど、ネットがなかった時代には撮影したビデオテープを海外から送ってもらったり、実際に渡航して買いたい馬に乗りに行くしかなかったですから。それがかなり大変な作業だったのですが、今はインターネットのお蔭でとても容易になっています」 

 このように一昔前は海外の馬を購入するには障壁があったため、競馬を引退した競走馬を乗馬用、競技用に調教をして、障害が高いクラスの競技にも出場していた。だが以前のような障壁もなくなると、事情も変わってくる。 

 「サラブレッドにも才能のある馬がたくさんいるのかもしれないですけど、海外から買ってきた方が早いと考える人が増えたのだろうなと、個人的には思います」
 

 つまり障害飛越用に調教された海外の馬の方がかかる手間も少ないという理由から、輸入馬の割合が増えているということなのだろう。

“中間種”と呼ばれる馬

 ここからは中間種と呼ばれる馬についてもう少し掘り下げてみる。 

競馬ではサラブレッドが用いられるが、馬術においてメジャーなのは中間種と呼ばれる品種だ。 

事実、過去4度のオリンピックでは、障害飛越、馬場馬術、総合馬術といった競技において、サラブレッドは一度も優勝をしておらず、中間種と呼ばれる馬たちの独占状態となっている。 

 



(資料:All Events|FEI.org より、Creem Pan調べ)

 

 オランダ温血種(KWPN)、セルフランセ(SF)、ハノーヴァー(HANN)など、一括りに中間種と言っても、たくさんの品種がある。 

 その中でも、12個の金メダルの内、5つを獲得したオランダ温血種(KWPN)を例にとって紹介する。オランダ温血種・KWPN(正式名称は、Koninklijk Warmbloed Paardenstamboek Nederland)は、19世紀にオランダで作り出された中間種で、農業用に開発された重種のヘルデルラント種とフローニンゲン種が基礎となり、そこへ軽種のサラブレッド、フランスやドイツの中間種を交配された品種だ。 

輓用馬(農業用)特有の歩様と牽引に最適な長い背は、サラブレッドを導入することで短く力強いものに変わり、気質上の問題点も、近縁の中間種と交配することで矯正されたと言われており、障害飛越競技、馬場馬術競技に優れた能力を発揮している。

資料:サラブレッドと中間種の比較(写真:筑波スカイラインスティーブル提供)

 KWPNの他にも、先にも挙げたフランス原産のセルフランセ、ドイツ原産のハノーヴァー、ホルシュタイナーなど様々な品種がいるが、それらに共通する部分は、過去の使役・用途の面影を遺しつつも、どの品種も馬術競技へコミットした馬体のつくり、あるいは気性を持ち合わせているところだ。 

  改めて紹介すると、筑波スカイラインスティーブルでは、28頭のうち8頭が中間種、17頭がサラブレッド、その他が3頭となっている。 


資料:Creem Pan作成(2021年8月末時点)
 

 

サラブレッドは乗馬に不向き?

 実際のところ、サラブレッドは乗馬や馬術競技馬に向くのだろうか。

 「ジワジワではなくスパッという切れ味があって、前脚もスパンと地面を叩いてトモ脚(後ろ脚)を踏み込むというような筋肉の質ですよね。サラブレッドはそれを持っていると思うんです。なのでサラブレッドはむしろ障害に向いているのではないかと兄とはよく話をしています」

  サラブレッドの持つ一瞬の瞬発力が、障害飛越には必要だと増山さんは語る。その上で、筑波スカイラインスティーブルでの状況を尋ねてみた。

 「ウチのクラブの場合、僕が障害馬術選手として活動していることもあって、まず障害の向き不向きを見極めます。障害の飛び方や、飛越する時の前脚の曲げ方、後ろ脚の上げ方がどうかを判断します。障害をあまり好きではないとか、障害をポロポロと落とすというのであれば、障害のトレーニングは辞めてウチの練習馬として一般のお客様が乗れるような調教をやってみたりはしています。障害を力強く飛んでいったり、難無く飛越するような障害に向く馬は別メニューで障害の練習をします」 

 障害の素質ありと見込まれ別メニューを組まれた馬たちも、基本的には長時間の調教はしないのだという。 

 「馬が障害飛越を嫌がらないよう、ちゃんと飛べば早く終わるんだというマインドにしてあげるようにしています 

 

 だが競走馬が引退する理由として、JRAの場合では成績が頭打ちになるというのもあるが、馬体に故障があって痛い箇所があるケースが多く、全く故障のない状態で来る馬は少ない。
 

 「仮に馬体が100%の状態でも難しい場合もありますが、たいてい痛い箇所があってここに来るので、高い障害よりも低い障害を飛越させた方がいいというのはありますね」 

 増山さんが言うように、競走馬時代からの故障箇所があるため、低い障害を飛ばせるというのもあるだろうが、海外から輸入された中間種に比べるとサラブレッドはパワーよりも素軽さが勝っている傾向にある、110㎝、120㎝などの低い障害のクラス向きとも考えられる。現にそのクラスの競技にはサラブレッドの出場頭数が多いこともあるようだ。 

  

 もう少しハイクラスの競技会では、サラブレッドが通用する可能性はあるのだろうか? 

  

 「これは僕の考えですけど、障害飛越競技では才能のあるサラブレッドなら活躍する可能性はあり得るのではないかと思います。総合馬術(馬場馬術、クロスカントリー、障害飛越の3競技で競う)でも、リオオリンピックで海外の選手が引退競走馬で出場していたのでゼロではないと思います。馬場馬術に関しては僕の専門ではないので、あまり適当なことも言えないのですが…。馬場馬術は、肩をすごく上げて前に出すというように、動きに我慢強さが求められるように思うんです。それを考えると、サラブレッドは障害の方が向いていると感じます」 

 

 馬場馬術ではかつて、中俣修選手(故人)とのコンビで国際大会に入賞したアサマリュウというサラブレッドの名馬がいた。それ以降アサマリュウを凌駕するサラブレッドは、日本では現れていない。馬場馬術特有の繊細な動きは、サラブレッドには合っていないのかもしれない。増山さんは、障害飛越競技でこそ、サラブレッドの持つ瞬発力とスピードが生かせると考える。 

 「オリンピックレベルの大会になると、さすがに通用する馬は少ないとは思いますが国内で中障害と言われる高さ130㎝のクラスであれば問題なくこなせるサラブレッドもたくさんいます。日本人は欧米と比べると体格的にそんなに大きくなく力強さもないので、海外から来た中間種だと抑えきれずに持っていかれたりするですね。その点サラブレッドは、口が柔らかくて敏感ですし、脚の指示に対してもシュッと反応してくれます。僕らはそのように反応してくれることを『軽い』と表現していますが、人間が余計なパワーを使わずに乗れるのではないかと思います。なのでむしろ日本人にはサラブレッドの方が向いているのではないかと思います」
 

 その軽さとサラブレッドの持つスピードがうまくマッチすれば、障害飛越競技ではサラブレッドが持てる能力を発揮して好成績を収める可能性は十分にありそうだ。 

 また競技においては、持ち前のスピードが重要なファクターとなる場合もあると増山さんは言う。 

 「ソウルやバルセロナオリンピックあたりでは馬が飛べる高さの限界のところで障害を組んでいましたが、それでは馬も苦しいでしょうし、今は高さよりもコースの難易度を上げています」 

 障害と障害の間の距離や、障害を飛びやすくするためのコース取りなど、高さだけではなくテクニックが問われるコースレイアウトが昨今では主流になっている
 

 「ただそれも多くの人馬が克服してきています。ではどうすれば馬に負担のないハイレベルな競技になるかというと、あとはスピードなんですよ。障害飛越競技では、スタートからゴールまでタイムを計っているのですが、例えば中間種が70秒でゴールするところを65秒にしようとすると、5秒タイムを詰めなければならないですよね。となると、それまでのリズムよりも速くしなければならないので、馬も焦るわけです。でもサラブレッドだったら、中間種に比べると元々が速い馬たちなので、早いタイムを目標にしても焦らず余裕を持って回ってくることができると思うんです。それも軽くてスピードのあるサラブレッドだからこそできるのであって、そのあたりは注目はされていますし、僕がサラブレッドが障害に向いていると思う理由の1つが、このスピード感にあります」 




写真:障害を飛越するスタークソックス号と増山大治郎さん(写真:©信田 尚吾

引退馬の受け皿として感じる葛藤



資料:日本馬事協会「馬関係資料」より(Creem Pan調べ)

 増山さんはサラブレッドを乗馬、そして馬術競技馬としてセカンドキャリアを歩めるよう、乗馬クラブの経営者として長年リトレーニングを行ってきている。ただ増山さんの元に送り込まれてきたサラブレッドすべてを乗馬にできないという現実もある。年間約7,000頭というサラブレッドの生産頭数を考えれば、増山さんに限らず、競馬も乗馬も携わる誰もが同じ状況だと言えよう。 

 「例えば骨折して競馬を引退して乗馬にしようとしたとします。骨折しているので半年間の休養が必要で、でもその間もご飯は食べますし、ケアなど手間が掛かります」 

乗馬としてお客を乗せない、いわば稼働できない馬が一馬房を占めると、その馬にかかる経費が全てクラブの負担になる。 

 「その負担をクラブがどこまでできるのか、どこまで我慢できるのかという問題になってくるんですよね」 

 それでも脚元に不安を持った馬を受け入れなければならない場合もある。競馬から引退して乗馬となる場合、その馬を管理している調教師からクラブに連絡がくることが多い。これはどのクラブでも言えることなのだが、悪い箇所や痛いところなど、どこか故障がある馬を断ってしまうと、調教師や馬主さんとの関係性がそこで崩れてしまうため、どのような馬でも一旦引き受けるケースがほとんどだ。
 

 「父のクラブでもウチでもそれは同じです」
 

 だがその中には、乗馬にはならない馬が絶対に出てくる。怪我をしていない馬であっても、気性面で向かないこともある。 

 「それを預かって半年頑張ってみて1円にもならない馬ばかりだったら、こちらが赤字で破産してしまいます。馬を助けるためにやっているはずなのに、これでは本末転倒ですし、可哀そうですけどその馬をどうするかを心を鬼にして判断しなければなりません」
 

 その一方で、競馬から回ってくる馬の中には、故障があったとしても乗馬や競技馬として素質のある馬も当然いる。調教師からの話を断ると、その時点で家畜商に渡る可能性が高く、才能のある馬を逃すことにも繋がる。それが断らずに馬を引き受ける理由にもなっている。
 

 「そういう才能を見出したいですし、ちゃんと乗馬になれよ、ちゃんと飛べよという気持ちで、日々調教や選別を行っています」 

 1頭養うには人手もコストもかかるし、1つの乗馬クラブが扱える馬の頭数にも限りがある。馬房等に余裕がない限り、普通に考えれば1頭新しい馬が入厩したら、それまでいた馬たちの中の1頭をクラブから出さなければならない。また競馬を引退してクラブに来た馬すべてが乗馬に向いているわけではない。怪我をしていたら、よほどのことがない限り、治療費をかけ時間をかけて待つということはクラブの経営的には難しい。引退馬支援やセカンドキャリアが注目され、世間の声が強くなっている昨今でも、セカンドキャリアには繋げられないと判断せざるを得ない馬が多いという厳しい現実があるのだ。 

 では狭き門をくぐり抜けて乗馬になった馬たちのその後も気になるところだ。増山さんのクラブでは、馬に負担をかけないように1頭につき1日、1~2レッスンにとどめている。だがクラブによっては、もっとたくさんのレッスンに出ている馬もいる。前回の家畜商・Xさんも、そのような馬たちの状況を見聞きし「馬は生きていれば幸せなのか」という重い問いを投げかけ、持論を語ってくれた。その問いに対して、長年乗馬界を見続けてきた増山さんだからこそ知るエピソードで答えてくれた。 

 「乗馬クラブには、馬と人との出会いがあります。練習馬としてたくさん人を乗せてきた馬を可愛がっている人もいますし、その馬を可哀想に思って自馬にする人が現れることもあるんですよね。実際にそのような例をたくさん知っています。オーナーがつけば可愛がってもらえますし、ずっと面倒みてもらえますから、それも1つの可能性としてありだと思うんです」 

  

 そして元競走馬から競技馬として一歩を踏み出した馬たちに、希望の光となりそうな競技ができた。それはRRC(Retired Racehorse Cup・引退競走馬杯)という引退競走馬の競技で、これができたことで少しずつ引退馬の状況が変わりつつある。 

 「引退競走馬のリトレーニングは、僕らからしたら昔から当たり前のことでした。その上にRRCという賞金の出る競技が目玉としてできて、馬や僕らが注目されるためにもっと頑張ってやってみようというきっかけにもなるでしょう。規模もだんだん大きくなってきたので、(引退競走馬にとって)これは良い流れなのではないかと思っています」 



写真:RRC2020で優勝したナンヨ―アイリッド号と増山大治郎さん (写真:本人提供)

取材を終えて

 増山さんのように、本当の意味での乗馬として活躍できるよう、その馬が何に向いているのかを見極めリトレーニングに取り組む人がいる。乗馬として生産され、調教を受け、経験を積み、競技会での即戦力として輸入されたヨーロッパ産の中間種に押され気味ではあるものの、増山さんはサラブレッドの持つ、軽さやスピードに価値を見出し、競技馬として花開かせようとしている。
 すべてのサラブレッドの命を繋げることは現実的には不可能だ。となれば、どうしても命の選別は行われなければならない。どの業種の人でも馬に関わる人は皆、その厳しい現実と向き合いながら、自らできることに日々向き合っている。そう感じた。
 



協力:増山大治郎
   筑波スカイラインスティーブル

取材:片川 晴喜 

文:佐々木 祥恵 

構成・監修:平林 健一 

著作:Creem Pan

 

次回予告

 競走馬の一生を左右する重要な場面を知る様々な人に話を伺い、広い定義での「引退馬支援」ついての情報を連載するこの企画。  

 第5回は10月1日の公開予定で、引退馬協会代表理事・沼田恭子さんにお話を伺いました。  

  

 テーマは「全頭生かせなければ意味がないのか」 

  

 ウマ娘のブームも追い風となり、引退競走馬と、その支援活動にスポットライトが当たり始めている昨今。「救いたい」という声が大きくなる一方で、「全頭を生かすことはできない」という言葉も多く耳にするようになった。長きに渡って、この課題と向き合ってきた先駆者に、引退馬支援の本質を訊く―。